雑記事「最後のジェダイ」について

EP8について

EP7からの新新三部作は、これまでぼんやりとしか匂わせていなかったジェダイやフォースの宗教的色合をはっきりと描こうとしているように思う。ジェダイ・オーダーという組織がそもそも超常的な存在(フォース)や厳格な規律、修行(さらに強大な武力)といった面で宗教団体であるし、EP7のマズやローグワンのチアルートといった今回新たにメインキャストとして活躍する「非ジェダイのフォース信奉者」は、「フォース教」の色合を濃くしている。これに加えて町山智弘氏の「カイロ・レン=ISに合流する若者」という指摘を借りていえば、現代の宗教、特にユダヤ・キリスト・イスラムの複雑化した、というより魔界化している教義解釈間の断絶をサブテキストにしているのではないかと思う。

 

EP8「最後のジェダイ」は、しきりに「衝撃の展開」を謳っていて、少しでも映画をかじった者ならその謳い文句がこれまで我々にもたらしてきた結果にげんなりとするのであるが、「最後のジェダイ」の結末がどうなるにしろ、ストーリーの要は「ルークがEP6以降一体なにをしたのか」という部分だろう。現在判明しているのは、「ジェダイ・オーダーを再建しようとして失敗し、レン騎士団という造反者を出した」ということだけである。よって、起承転結の基本からいって、EP8ではルークがどう失敗したかが描かれるはずだ。「衝撃の展開」の大部分はその内容にあたるのではないかと思う。

 

ここまではなんというか当たり前の話で、ここからがスターウォーズ・ファンの鍛え上げられた想像力(と書いてフォースと読む)が及ぶ範疇である。ルークはなにを失敗したのだろうか。親友の息子で甥のベン=カイロレンをはじめとする新生オーダーの面々がダークサイドに堕ちるのを阻止できなかった、つまりオビワンと同じ失敗をした、というのが大筋の理解であるように思うが、だとするとルークはとんだ無責任野郎ということになる。オビワンは弟子であり親友のアナキンがダークサイドに転落したあと、躊躇はしたものの自ら彼を抹殺しにいった。ルークはというと、よく分からない遠い星に引きこもってしまった。しかもそのまま消え去るわけでもなく、やたらと周到な手段によって隠蔽された地図を残して必要な時は呼んでね、という始末である。これではルークに憧れた我々世代はがっかりどころではないし、まさにその世代であるスタッフの本意ではないだろう。ではあるべきルークの姿とはなにか。

 

EP6までのスターウォーズはアナキン=ダースベイダーの物語である。フォースにバランスをもたらす者として処女懐胎によって出生した「キリスト」であるアナキンは闇に堕ちるが息子であるルークによって善を取り戻し、やっとその使命を果たす。劇中アナキンの体験とルークの体験を意図的にダブらせているのは周知の通りで、ルークはある意味でアナキンの一側面、善の部分を背負っている。そのルークがジェダイをどのように再建しようとするか。ジェダイ・オーダーはその性質上極めて閉鎖的かつ一部優生主義的な部分もあり、マスター・ナイト・パダワンといった階級制度の縦社会である。また、ヤヴィンの戦いから数千世代前から続くジェダイの歴史の中で、保守的な理念や規律が形骸化していた(まさにキリスト教誕生直前のユダヤ教のように)。それは結果的に皇帝をのさばらせ、ジェダイ自身の壊滅を招いたが、アナキンはダークサイドに堕ちる前からそれらジェダイの負の側面に疑問を抱いていた。そのアナキンの善を背負うルークが再建するジェダイ・オーダーには、なんらかの改革が施されているはずである。結婚容認や年齢制限排除など規律の緩和がまず挙げられるが、私が予想する改革の核は、才能主義の撤廃である。つまり、「加入(入信)希望者は誰でもフォースの扱いを訓練する」開かれたジェダイ・オーダーこそ、ルークの考えた新しいジェダイ像なのではないだろうか(まさにイエス・キリストがそうしたように)。そもそもフォースとは強弱はあれどあらゆる生物に宿る「仏性」みたいなもので、ジェダイナイトのように超人化まではいかなくともフォースの知覚ぐらいまでならば到達可能性がある(フォース・センシティブ)。チアルートがいい例である。また、EP7ではマズが非常に重要なシーンで、フォースはあまねく全てに存在しているとしきりに強調しているのも、それがまさに新オーダーの理念となっているのであれば(さらにマズが新オーダー結成に寄与しているとすれば)合点が行く。さらにジェダイに憧れ、ジェダイになりたいと本気で思い、自動ドアに手をかざす我々鑑賞者のフィーリングともリンクする(もっといえばこの先100年スターウォーズで儲ようとしているディズニーとしても、ジェダイの間口は拡げておいたほうが都合がよい)。

 

しかし、改革には保守派の反対が付き物である。ルークはこの理念のもとジェダイの再建に乗り出したが、ベン=カイロレンの思想が誤算だった。カイロレンは祖父のアナキン(旧世代のジェダイ)に強い憧れをもっていた。そして原理主義に陥ったのである。ジェダイを大きく方向転換しようとするルークに反発、ジェダイ原理主義組織としてレン騎士団を結成、その後スノークと接触し、ダークサイドに落とされたと考えると辻褄が合う。つまりダークサイドに転落→ルークと敵対、ではなく、ルークと反発→ダークサイドに転落という順番ではないだろうか。この経緯によってルークは新オーダーの方向性に迷い、引きこもっていたのではないかと予想する。妄想を加速させれば、EP8か、或いは9で「非ジェダイ」であるハン・ソロの霊体とルークが交信し、ルークがフォースの開放を改めて決心するというシーンが入るはずだ。ハンソロの霊体化は国民皆ジェダイのこれ以上ない象徴となるし、ルークとハンソロの絡みがこれまで一切ないのも解せない。もしこのシーンが入るとすればEP7で既に撮影されていて緘口令が敷かれているのだろう。実現すれば確かに衝撃の展開である。

 

ではタイトルの「最後のジェダイ」とは誰のことであろうか。これまでの妄想を土台にすれば、旧世代最後のジェダイ、という意味でルークのことかとも思うが、あえて突拍子もない予想をすると、スノークのことではないか?
スノークは大昔ヨーダ以前のある時点で一度滅んだジェダイ・オーダーの生き残りか、或いはオーダー66を生き残ったジェダイかで(頭に傷がある)、その時代の原理思想をカイロレンに植えつけたとか、そういうキャラづけをした上でタイトルとして出しておかないと今のままでは悪役としてキャラが弱すぎる。

 

最後に三部作中間恒例の腕切りについて。
カイロレンがダースベイダーになる為に自分で自分の腕を切ることでより狂人化するとかどうでしょう。但し、EP7を執拗に旧三部作風にしたのは、ファンサービスはここまでだよ、これからは好きに作るよ、という表明だと思っているので所謂恒例行事があるかどうかは分からない。